『地方都市再生の秘策』
西村 晃
埼玉県東松山市は人口9万人あまり。
東武東上線で池袋から一時間ほどの「下りの地」である。
駅に降り立っても寂しい商店街があるだけ。
「埼玉都民」は大きな買い物の時は池袋など「上り」に行ってしまう。駅前商店街にはコンビニや居酒屋はあってももはや生鮮三品を買う個人店もそろわず、地元の人はスーパーに行く以外に消費の選択肢は乏しい。
けっして人口が激減している地方都市の話ではない。
東京周辺のベッドタウンでさえも街の風景はどこもこんな状況だ。
寂れる街に活気を与える方法はないか。
地元の経営者に依頼されて現地を歩いてみて、私には秘策が浮かんだ。
駅から歩いて5分程の地に広い境内をもつ神社がある。
私の目に止まったのはこの神社の名前である。
「箭弓神社」と書いて「やきゅう神社」と読む。
その昔、武将が武運を祈ったとされるこの神社は、転じてスポーツなどの成功を祈る人々が参詣に訪れているそうだ。
キャンプインを前にしたプロ野球選手、甲子園での必勝祈願をしにくる高校球児・・・。
せっかくこういう人たちが訪ねるのに地元の人たちにはそれにあやかろうという発想さえないようだ。
例えば地元埼玉の西武ライオンズから大リーグへと旅だった松坂投手に東松山市長が「箭弓神社の勝ち守り」を成田空港で渡したら、日本中のマスコミがこの神社をとりあげ、スポーツをしている人たちが押し寄せたはずだ。
北京五輪に向かう星野ジャパンでもワールドカップサッカー日本代表でもいい。
「スポーツと言ったら恒例の箭弓神社」という評価は努力してつくるものではないのか。全国に一万八千あまりあると言われる商店街で、比較的元気に生き残り、広域集客をしている商店街には門前町が多いという事実は注目に値する。
巣鴨とげぬき地蔵通り、鎌倉小町通り、長野善光寺通り、伊勢おはらい町などを見てほしい。
そして町おこしには、あるいは「あえて下らせる」には、やはり何らかの仕掛けが欠かせないのだ。
そして第二段階である。
残念ながら現在の東松山の商店街自身にはあまり魅力的な店がなく、せっかく「箭弓神社めざして下ってきた人」に食べてもらったり、買ってもらう商品が見当たらない。
唯一この町には焼き鳥屋が多いという特徴があるのだが、それとて夜の酒場の話にとどまっている限りは市民以外の人をマーケットとしては捉えにくい。そこで神社の境内や駅から神社に通じる参道を活用する必要がある。
たとえば骨董市、あるいは植木市など特徴ある商品を集めた市で東松山に人を寄せ集め、その周囲にそれこそ自慢の焼鳥の屋台を並べるのだ。
あるいは境内を利用したコンサートや日曜日のラジオ体操大会と朝採れ野菜市を絡ませてもおもしろい。
大切なことは、今日の消費者はもともと欲しいものなどないと認識すべきということだ。
大型ショッピングセンターといえども買い物をやまほどする人はいない。
敢えて言えば「楽しい時間という商品」を買いに行くのだ。
ならば町おこしも楽しみを提供することだ。
「縁日そぞろ歩き風、仲見世冷やかし風」の消費者だからこそ、箭弓神社の境内は市民マーケットの舞台として期待できる。
「うちは地元のみなさんにご利用していただきたいと考えています。求められれば、スポーツ必勝お札やお守りも作る用意があります」
箭弓神社の宮司澤田昌生さんは、地域に果たす神社の役割をよく認識しているようだった。
西村晃氏 オフィシャルサイト>
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